【ハ】廃人ロード
僕はテレビゲームをほとんどやらない。誰かに用意された世界観やルールの中で何時間も過ごすというのが性に合わないのだ。
どちらかといえば自分の世界に人を招いて「ほら、こんな世界知らなかったでしょ?」としたり顔でうそぶきたい。
そんな僕が唯一やっているのがポケットモンスターというゲーム。いわゆるポケモン。
ストーリーやキャラクターへの関心は薄く、対戦の要素がお目当てなのだがこれが面白い。高校時代将棋部の大会で県3位の実績を持つ僕が認めるゲーム性の高さ(自慢は含まれていません)だ。
昨年11月に発売されたポケモンの新作にはネット上で廃人ロードと呼ばれる道がある。
上方向キーを押しっ放しにするだけで工業生産的にポケモンのタマゴを孵化させ続けることができるこの道は、なるべく強い個体を集めたい、いわゆるポケモン廃人にはもってこいの道なのだ。
僕は今この道を走っている。しかし決してゲームに溺れてなんかいない。何百時間走っても5分だけ走っても廃人ロードなのだ。僕はたまたま廃人ロードを走っている。あくまで形式上だ。
ポケモンはネットワーク環境を使って世界中の人たちと対戦の戦績を競うことができる。
ルールは5つ。シングル、ダブル、トリプル、ローテーション、スペシャル、とそれぞれコツが異なり、すべてのルールで好成績を残すのは難しい。
たった今5つ、すべてのルールでの総合点での自分の世界ランキングを見てきた。148位だった。
僕は今廃人ロードを走っている。この廃人ロードはどこへと続くのだろう。いつかゴールが見えるのだろうか。
窓の外には夜が広がっている。窓を開け放してみる。外の空気は冷たい。身体は反射的に震えて体温を生み出そうとしている。
ゲーム機の上方向キーを押す指の力をそっと抜いてみる。